お茶

無意識の音に耳を澄ませる

人生に迷ったら、「お茶」に聞いてみよう。

良縁を繋ぐお茶屋「茶肆ゆにわ」店長・こがみのりが語る茶話。

お茶には、人が生まれ変わるための秘密が眠っています。
その深遠な世界に触れてみてください。

お茶の極意は、音を聞くこと

今回は、「自分が立てる音」を意識してみることにしましょう。

茶肆ゆにわのスタッフ・菅井が、まだお客様だった頃の話です。

店の前に「ガチャン」と自転車を止め、扉を「ガラガラッ!」と開けて勢いよく入ってきていたので、音を聞いただけで、「あぁ、彼が来た」とわかるほどでした。

実はわたしが師匠・北極老人からお茶を習う時に、いちばん初めに言われたことは「音を聞きなさい」
はじめは意味がわかりませんでしたが、北極老人がコーヒーを淹れる姿を見て、気付かされたのです。

  • 蛇口をひねり、水を流す音。
  • コーヒー豆をザクッとすくう音。
  • ドリップしたコーヒーが、静かにサーバーに滴る音。

それらがまるで音楽のように美しく、聞いているだけで瞑想しているかのような気持ちになれたのです。
そうして淹れられたコーヒーが驚くほど美味しかったのは、言うに及ばず。

只今の自分の「心」の状態は、自分が発している「音」に表れます。
まず自分がどんな音を出しているのか意識してみましょう。

自己重要感を求めない

人は、自分が出している音には鈍感で、意識できていないことが多いのです。
ですから、無神経にドアを「バタンッ!」と閉めてしまったり、洗い物をしながら「ガチャガチャ!」とうるさかったり。

出す音がうるさい人は、心の中もうるさいのです。
言い換えると、「自己重要感」を求めているということ。

「私のことをわかってほしい」
「認めてほしい」
「褒められたい」
「注目を浴びたい」

そんな気持ちで心がいっぱいなのです。

例えば掃除をしているとき。
自己重要感を求めていると、「私、掃除してます!」と自己アピールするかのごとく、ホウキをガンガンと机に当てたり、モノをがさつに動かしたり、音もうるさくなります。

ところが、私の師・北極老人が掃除をされるときは、まさに風のようでした。
塾の自習室を掃除される時は、生徒たちの集中を削がないように、存在感を消して。
またある時は、日常のなにげない動作の中で、机をなでたり、棚をさっと拭いたり。
掃除をしていることに周囲が気がつかないほど、空間に溶け込んでいるのです。

世間では、自己重要感を持つことはあまり否定されません。
むしろそれは肯定されていて、「あなたは素晴らしい」「あなたはすごい」という言葉に、多くの人は酔いしれます。
けれど、「私が、私が・・・」という自分本位の考え方が根底にあるうちは、お茶からも、空間からも、人からも、エネルギーを“奪う人”になってしまうのです。

自分でなくて空間を見る

「立てる音」が悪目立ちしてしまう人と、空間になじむ人がいます。
その根底には、音を意識しているか、していなか、その空間に対して意識がいっているかいっていないか、の違いが潜んでいます。

その瞬間に「空間に意識がいっていない」ということは、つまり、その人の意識は自分にいってしまっているのです。
同じ「音を立てる」行為でも、周りと分離して、ひとり浮いた感じになってしまうのと、全体をオーケストラのように見立て、立てた音が心地よいアクセントになるのとでは、音の印象が違ってきます。

つまり、音に「自己重要感」が入ってしまっているから、目立つ音になる。
もし、同じ音を立てるにしても、その空間を「感じながら」なら、空間に合わせた音になり、空間になじむのです。

これは実際によくあることで、たまたま大きい音を立ててしまった瞬間、大きい音がスピーカーから鳴ったから、気にならなかった、とか。
ちゃんと意識を向けていて、空間と意思疎通ができている人は、そうやって空間が助けてくれるのです。
でも、そうでない人は、空間とのつながりが途切れているから、シーンとしている時にやってしまったりして、余計に目立ってしまういます。


空間に耳を澄まし、祈りと共に

自分がその瞬間に、どれだけ周りの人たちや空間に対して配慮ができているか、が大切なのです。

飲むだけで静寂になれるお茶

心の中が静寂なら、立てる音もせいになります。
心の中が、周りの人、モノ、神様への感謝に満ちていたら、立てる音も心地よい音になるのです。
自分の音が乱れていると感じた時ほど、意識して、余計な音を立てないようにしてみてください。
それだけで、心のおしゃべり、ざわつきが自然とおさまっていきます。


心地よい音は、静寂な心から

私も、お茶を淹れるようになってから、自分の出している音により注意を払うようになり、多くのことに気が付きました。

何気なく発している音に気をつけていれば、自分の無自覚な行動、つまり悪い癖に気がつくようになります。行動の荒さ、雑さが見えてきて、所作も美しくなっていきます。

そして、一点の曇りもない静寂な心で淹れたお茶は、飲む人の心にまで、平安をもたらすのです。

祈りと共に生きる

空間の音に耳を澄まし、エネルギーを「自己重要感を満たすため」に使うのではなく、「誰かを応援するため」に使う。
目の前でがんばっている人を支えるため、また、自分の未来に対してエネルギーを使う。
それはつまり、「祈り」です。

毎日、毎瞬、祈りと共に生きられたら、エネルギーは循環していきます。
いつかそれが返ってきた時に、周りがあなたを自然に応援してくれるかたちになるのです。
周りから自然に環境がととのっていきます。
万物は循環していますから、祈りと共に生きることは、万物の意識とつながることでもあるのです。

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