失敗作から始まったパティシエへの道
「ゆにわ」を知ったきっかけは?
「ゆにわ」を知るきっかけは、大学受験塾ミスターステップアップとの出会いですね。
当時の私は浪人生でした。
メンタルが弱かったので受験を最後までやりきるための心の指針が欲しくて、ここの先生から学びたいと思いました。
春と夏の短期合宿に通っただけでしたが、その経験が私に大きな変化をもたらしました。
驚いたのは「食事」による変化です。
実は私、当時は拒食症に近いぐらいまともにご飯が食べられなかったんです。
二浪が決まり、家族からも応援されず、未来に希望が持てなかったからだと思います。
塾では先生や他の塾生と一緒に食事をしますよね。
もともと食事に思い入れがあったわけではないのですが、一口で「ここの食事は違う」ってわかりました。
おいしいだけじゃなく、安心するんです。
中華丼を食べて涙がこぼれたことも。
エネルギーがカラカラに乾いていたから感じやすかったのかもしれないですが、食事で満たされるって経験をしたのはこの時が初めてでした。
パティシエになろうと思ったいきさつは?
無事大学に合格して1年目のとき、ちこ店長の最初の本、『いのちのごはん』が発行されました。
その本にレシピが載っていた「ゆにわケーキ」を大学の友達につくってあげようと思い立ちました。
とはいっても当時の私にはお菓子作りに関する何の知識もなく、道具も持っていません。
材料はできるだけ高級なモノを買いましたが、器具まではムリだったので、スケールの代わりに軽量カップで量り、泡立て器の代わりに菜箸で混ぜてつくりました。
最初はホントにめちゃくちゃでした。
レシピを見ると材料に対する分量が書かれていますが、人参だけ書かれてないんです。
それを見て「多ければ多いほどいいんだろう」と思ったんです。
それでたくさん人参を入れて焼いたんですが、全然ふくらまないんですよ(笑)。
何分焼いても湿ったまま!だけどその経験でケーキ作りへのスイッチが入りました。
火が付いたみたいに、バイトから帰って毎晩12時から「ゆにわケーキ」を焼くのが習慣になりました。
どのようにして上達していったんですか?
作り始めた頃は、懇意にしていた紅茶屋さんにケーキを持って行ってアドバイスをもらっていました。
「もっと卵を泡立てたら?」とか「もっと温度を上げたら?」とか言ってくれるので、次のケーキ作りに活かしていました。
すると、だんだんちゃんと焼けるようになっていったんです。
ある時、自分でも「あ、これいけるな」ってモノができた日がありました。
今までで一番おいしくて、これなら食べてもらえるって思えたんです。
そこで思い切ってゆにわに持っていきました。
すると店には店長がいて、食べるなり「おいしい!」って言ってくれました。
それだけでもビックリなのに、そのケーキを北極老人にも渡してくれたんです。
すると「もっとないの?」と言われ、急いで持って行きました。
驚いたと同時にとても嬉しかった。
その日からゆにわの人たちにケーキを作っては食べてもらう、と言う経験が増えていきました。
ゆにわのお菓子は、「材料」「人」「場」の光の融合
どんな思いで取り組んでいたのですか?
とにかく試行錯誤の日々でした。
失敗したことは数知れず。
たとえば、知識や技術に偏りすぎたこと。
「プロにならなきゃ」って思いすぎて、気持ちがズレてしまったことがあったんです。
技術よりも大事なことがあるって教わったのに。
そんな状態が続いたとき、ゆにわでお菓子をつくる機会がしぜんと消えていきました。
そうして事務の仕事をさせていただくようになったんです。
事務って外部からの電話対応が多く、苦手なことばかりでした。
でも、その経験が私を変えてくれたんです。
事務は会社全体の情報が集まってくる部署です。
日々の業務を通して、皆がどれほど支え合って働いているのかが見えたんです。
一人の仕事の背景にこんなに多くの人の支えがあるんだってことを知って視界がパーっと開けました。
すると不安や焦りみたいなものが消えて、感謝の気持ちが溢れてきました。
そこからです、大事なことを守る覚悟が決まったのは。
気がつくと、私の中に食に対する慎み深い気持ちが育っていました。
そうやって経験を通して学んでいける道筋をつくってもらっていたと思うと、ちゃんと作ろうって気持ちがわいてきました。
塾で教わった通り、基本は徹底的に学び尽くそうと思って、お菓子のメカニズムや理論、由来や歴史まで学びました。
バイト代は全てお菓子関連の本や調理器具に変わりましたね。
お菓子への思いをきかせてください
パティスリーゆにわのコンセプトは「究極のホームメイド・スイーツ」。
プロのお菓子ではなく、手作りの温もりに満ちたお菓子をお届けしています。
添加物の入っていない自然素材のお菓子って本当においしいんですよ。
とは言っても、お菓子は「材料」だけでなく、「場」と「人」とが合わさってできるもの。
だから、自分の状態とは常に向き合い、「場」を整え、いつも最高の状態でつくっています。
お菓子って毎日必要なものではないですが、だからこそ特別な魅力があります。
贈っても、もらっても、皆笑顔になりますよね。
ゆにわのお菓子は、理屈を考えず、ただ心を開いて感じてほしい。
きっと、私が浪人時代にゆにわのご飯を食べた時のように、深い部分からの感動を味わっていただけると思います。