前回の記事では「幼少期に子どもがイイ子を演じていると、10代後半期に問題が出てくる」との話がありました。
では、そうならないために幼少期の間、親はどんなことに気をつければいいでしょうか。
今回はコミュニケーションのとり方についてのアドバイスです。
―どうしたら将来、娘が「イイ子病」になるのを防げますか?
私たちの塾は10代後半の子をたくさん預かっていますが、イイ子病はだいたいその頃に発症するんです。
原因はほぼ親子関係です。
親子で心を開いて対話したことがないから、信頼関係がほとんどできていないんです。
子どもは家で「いい大学に行ってほしい」とか、「お前のためにいくらかかっていると思うんだ」と言われると、親の言う通りにしないと愛情をもらえないからイイ子になるしかありません。
こんな親子関係がその子の人間関係のひな型になると、他人に対してもイイ子を演じるか、警戒が激しくなって自分の殻に閉じこもるかになってしまいます。
子どもの究極の安心は“無償の愛”です。
幼少期の頃に安心感で満たされた子は、自分や他人を無条件で信じられるようになり、将来にも前向きになります。
イイ子病を防ぐなら、幼少期から安心感を与え、対話を通して信頼関係を育てていくことですね。
―子どもと信頼関係をつくるために、何が必要ですか?
まず、家の中を安心の気で満たすことです。
子どもは家庭では安心を感じたいんですね。
自分に気持ちを向けてもらっている、今、お父さん、お母さんと一緒にいるって感じたいんです。
もし同じ部屋にいても親が全く別のことを考えていたり、スマホに夢中だったりすると、子どもは“一緒にいる”と感じられません。
「寄り添ってもらえていない」「ちゃんと話を聞いてもらえてない」と感じます。
一緒にいる時はできるだけ他のことに気を向けず、子どもの心に意識を向けてあげることが理想ですね。
私たちの塾でも、最初なかなか心を開いて話せない子には「こうしなさい、ああしなさい」と言わず、ただ一緒にいる、ということをしています。
気持ちで抱きしめているイメージですね。
すると、ようやく自己開示をしてくれるようになり、信頼関係ができて一緒に前に進めるようになります。
大切なのは子どもをコントロールしないこと。
子どもが主導権を握りすぎるのもよくないですが、親が子をコントロールしようとすると、逆にされてしまいます。
ただただ愛情を注ぐこと、これに尽きます。
―子どもの要求には、どう答えたらいい?
子どもが親とのコミュニケーションに求める「深さ」って様々です。
「量」で満たされたい時もあれば、「質」で満たされたい時もあります。
たとえば、長く一緒の部屋にいるだけで安心する子もいれば、時間は長くても、お母さんの心がここにないことに不安を感じる子もいます。
親はちゃんと見ているつもりでも、見てもらえていない、と感じる子もいます。
表面的なコミュニケーションでは満足できないのですね。
その場合はもっと深いところでコミュニケーションをとる必要があります。
親がいくら応えても子どもからの要求が止まらない時は、もっと深いところのコミュニケーションを求めているサインかもしれません。
―私の子ども時代の反動なのか、子どもを抑圧したくない。だから全く怒ったことがないんです
少しケースは違いますが、かつて塾生で「父親があまりにも何も言ってくれなくて寂しかった」と言っていた女の子がいました。
やはり父親からは「アカンことは、アカン」と導いてほしいのです。
子どもは人生をどうしていったらいいか指針がほしいんですね。
だから父親が長期的な方向付けを示してあげると、子どもは「父は自分のことを思ってくれている」と感じるようになります。
ただ、父親の都合だけで思いを押し付けると、子どもは「自分の気持ちを無視されている」って受け止めてしまいかねませんので、子どもの状況やタイミングはよく見てください。
― 一方的になってはいけないってことですね
そうですね。それと親の声のトーンも大切です。
子どもは敏感に声の響きから親の感情を感じています。
感情的になると、親のイライラを自分に発散をされたって伝わってしまい、子どもからすると「何それ?」となって、親への尊敬の気持ちがなくなってしまうのです。
親はできるだけクールな状態を保って丁寧に伝えてください。
でも、声のトーンが低すぎると子どもの心の深い所にズドンと入ってしまって萎縮する子になってしまいかねないので、語尾を上げるように明るいトーンで言うと感情が残りません。
子どもへの伝え方のポイント=落ち着いて丁寧に
〇ほめる時「よくできたね」↓ 語尾を下げる
〇叱る時 「そんなことしたらダメだよ」↑ 語尾を上げる
叱る時、声が低すぎると心の深い所に入ってしまい萎縮させてしまうかも。
語尾を上げて明るいトーンで言うと感情が残りません。
一子どもって親の感情を感じ取っているんですね
はい、子どもってよく見ていますし、よく感じていますよ。
親からすると、家事や仕事をしながら子育てをするって大変なことです。
特に母親の仕事って評価されたり、感謝されたり、報われることが少ないです。
父親が外でする仕事は社会的に評価されやすいですが、母親の仕事って膨大なのに夫や子どもにその苦労をわかってもらえないどころか、「やって当たり前やろ」って言われたりして、完全に奉仕ですよね。
孤独に悩むお母さんがいても不思議ではありません。
でも、だからこそ、母親って尊い仕事なのです。
子育ては奉仕の部分が多いので、お母さんは常にエネルギーを充電しておかないとキツくなります。
自分の子どもだから自分で何とかしないと…と頑張りすぎないよう、夫婦で話し合う機会は常につくってください。
そうやって愛情をかけて育てた子どもは、成長したら今度はその子が誰かに愛情を渡していけるようになるんです。
これって、すごいことです。
―親も子育てから学ぶことが多いです。娘と一緒にいる時間を大事にしていきます。ありがとうございました
子どもを萎縮させない伝え方のポイント
〇ほめる時「よくできたね」↓ 語尾を下げる
〇叱る時「そんなことしたらダメだよ」↑ 語尾を上げる