「御食事ゆにわ」の誕生ストーリーをお伝えします。
食べた人の奥底にある何かを変える不思議な力
オープンして12年目になる、このお店を切り盛りするのは、店長のちこさん。
ちこさんは、毎日ゆにわで、食べた人の心が温かくなる「美味しいごはん」を提供している。
ゆにわの食卓に並ぶ料理は、決して派手ではない。
しかし、そこには、どこか、温かさや懐かしさを感じる。
四季折々の食材を使った、季節の料理。
この国の風土で生まれて来た、食べ物。米、塩、水、清酒、味噌、醤油などの日本古来の調味料や、野菜、豆類、海藻類、魚介類、鶏などを使った家庭料理が、ゆにわの料理の基本になっている。
ちこさんは、著書でも、ゆにわで日々大切にしていることを世の中に伝えてきた。
そんなちこさんの料理には食べた人の奥底にある何かを変える、不思議な力がある。
その料理を食べて感動し、涙する人も。
訪れたお客さんからは、感謝の手紙が次々によせられる。
何がそこまで、人の心を魅了しているのか。
料理を作る相手はお客さんじゃなくて家族なんです
ゆにわの料理の原点は、家族や仲間に出す、究極の愛情料理。
ゆにわのごはんが食べた人をまるで子供のような笑顔にしてしまう秘密は、そこにある。
ちこさんが毎朝欠かさず作り続けている、ゆにわの名物がある。
何の変哲もない、具も、海苔もない、真っ白な、塩おむすび。
毎朝、食べてくださる方の幸せを祈りながら、ずっと握り続けてきた。
ちこさんは、このおにぎりには値段がつけられないと言い、ゆにわでは、あえて無料で提供し続けている。
一口頬張った瞬間、思わず笑みがこぼれる。
食べるだけで、自然と悩みが消えていく。
乾いた心が、満ちていく。
感動のあまり、涙が頬をつたう。
余計なことは、考えなくていい。
おにぎり一つで、こんなにも幸せになれる。
それを誰よりも知っているのは、ちこさん自身だった。
絶望から救ってくれた希望のひかり
実は、ゆにわで提供しているこの塩おむすびこそ、ちこさんの原点になっている。
今でこそ、多くの人を元気付けているちこさんだが、以前は、生きる希望を失ってしまった時期があった。
高校生時代のちこさん。
成績もスポーツも優秀で、たくさんの友人に囲まれていた。
はたから見れば順風満帆な生活そのものだが、多くの人に愛される、明るいイメージとは裏腹に、ちこさんの心の中にはいつも苦しさがあった。
周りの期待に応え、生きる日々。
自分ではない誰かを、演じ続けてきた。その息苦しい日々のしわ寄せが、少しずつちこさんを追い詰めていった。
恋人との別れ。
友人の裏切り。
顔中にできたたくさんのニキビ。
あらゆることが、上手くいかなくなった。
心身ともに限界だった。
そんなちこさんを救ったのが、兄の誘いで通いはじめたミスターステップアップという塾の、「先生」との出会いだった。
先生は毎日のように、塾生のためにおむすびを振舞ってくれた。
一口頬張った瞬間、とめどなく涙が溢れた。
温かくて、優しくて、とても美味しかった。
もともとちこさんは、白いご飯は嫌いだった。
しかし、先生の握ったひかり輝く「塩おむすび」だけは、特別だった。
それ以来、おむすび目当てで、塾に通い続けた。
先生の握ってくれるおむすびは、唯一の希望であり、光だった。
先生は、決して勉強しろとは言わなかった。
ただ、優しく、時には厳しく見守り続けてくれた。
次第にちこさんは元気を取り戻し、自ら机に向かい、勉強に励むようになった。
1 年後、そこには見違えるほどの、幸せと希望に満ちた、ちこさんの笑顔があった。
ひかりを与える人になる
そして、ちこさんはある決心をする。
「私もこんなおにぎりを作れるようになりたい」
それが、ゆにわの始まりだった。
先生が作ってくれた愛情料理。
今ではちこさんがその愛情料理を引き継ぎ、塾生たちを支え、応援している。
ちこさんがいた頃は20人ほどだった塾生も今では全国から毎年約100人も集まるほどになった。
それだけではない。
なんと中には「毎日のごはんをゆにわで食べたいから」と、家族で近所に引越しをするお客さんが増えている。
ゆにわの周りには、さながら大家族のような毎日ゆにわでごはんを食べる人たちがたくさん。
年齢層も、職業も、出身地も、みんなバラバラ。
けれど、文字通り同じ釜の飯を食い、本当の家族のように仲がいい。
なにより、その空間はいつも幸せな空気に満ちている。
ゆにわの一日
料理には、作り手の状態とそのお店の持つ空気がそのまま表れる、とちこさんは言う。
ゆにわでは、料理以前に、場を整え、自分自身を整えることを大切にしている。
隅から隅まで手作業で店内を掃除し、場を清める。
毎朝、スタッフ全員で、今日出会うご縁ある方々の幸せを祈り、手を合わせる。
仕込み中であっても、その意識は絶やさない。
失敗が続いた時、問題が起きた時は、全員で手を止め、厨房や自分自身を整え、仕切り直す。
閉店後は毎日床を水で流し、お店をピカピカに磨く。
今日という1日にけじめをつけ、また明日、出会う方たちに喜んでいただけるように。
幸せを祈りながら、お迎えの準備をする。
ゆにわの料理は、そんな小さな積み重ねによって、長年、守られ続けて来た。
映画『美味しいごはん』は「御食事ゆにわ」の日常を一年間、フィルムにおさめてきた。
そして、毎日のごはんを守り続けてきた、その背景にある想いをストレートに描いた。
食べ方が変われば、人生が変わる。
その真実に、ふれてほしい。
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